緑黄日記

水野らばの日記

郵便局で悟りを見る

 

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郵便局へと赴いた。

 

 

 私には南方の異国に居を構える友人がいる。郵便局に来た目的はその友人へプレゼントを送ることにある。私は、友人の起居する部屋に転がり込み、そこを立脚点として異国を満喫する企みを秘めている。このプレゼントを布石として、ゆくゆくは夢の南国ライフを手に入れるのだ。

 

 

国際郵便の発送には、郵便局に荷物を持ち込む前にQRコードの取得が必要である。

 

日本郵便のウェブサイトに国際郵便の専用フォームがあり、そこに宛先や配送方法や内容物を打ち込むと、QRコードがメールで届く、それを郵便局の専用読み取り機に当てると打ち込んだ内容が記載されたラベルが発行される、それを小包に貼り付け、窓口に持っていく。こういった手順をとるらしい。

 

 

前日、私は専用ページの案内に従って、必要事項を打ち込んでいった。予想に反してひどく手間取った。まず、記入事項が多い。それから、住所等をローマ字や英語で記入することに骨を折る、アパート名の文字数制限に翻弄される、選択肢として表示される配送方法の説明不足に喘ぐ、最後の方でブラウザバックに失敗して一からやり直す。そうして、私はこのように苦心しながら、やっとの思いでQRコードを手に入れた。

 

 

小脇に小包を抱え、郵便局のドアを潜る。冷房が効いていて涼しい。

 

郵便局に乗り込んだ私は、専用読み取り機にQRコードをあてがった。ジジジと発行されたラベルを小包に貼り付けて、窓口の列へと並ぶ。そして、自分の順番が回ってくると、窓口のマダムに「自分、国際郵便を出したいです」と小包を手渡した。

 

マダムは私のラベルを確認すると、素っ気なく言った。

 

「配送日を間違えていますね」

 

前日の苦労が一瞬で無に帰した。無に帰したっぽい。

 

私はマダムにペコペコと頭を下げ、後続に窓口を譲った。郵便局の端っこでスマホをぽちぽちと前日と同じように専用フォームに宛先等を打ち込む。やはり手間がかかる。やっとの思いで、QRコードを取得し、ラベルを作成して、小包に貼り直す。窓口の列に並び、再度マダムに手渡した。これで大丈夫であろう。

 

「配送方法のところ間違えていますね」

 

いたたたたたたたたた。

 

指摘が痛い。私はまたも間違えていたらしい。

 

マダムに配送方法の種類、そしてそれらの差異について手解きを受けた。昨日の私は何をしていたのだろうか。私は後続に窓口を譲り、先ほどの再放送を行う。やるせなさと恥ずかしさで泣き出しそうだ。国際郵便とは、かくも難しいものであったのか。自身の過誤を指摘され、それを逐一直していく作業、それが国際郵便。過ちの多い生涯を送ってきた私が苦心するのは当然の帰結というものだろう。

 

その後も、私は何度も窓口に並ぶ。

 

「向きが違います」

 

「大きさが違います」

 

「服装が違います」

 

「態度が違います」

 

「魂胆が違います」

 

私はマダムの指摘を受け止め、その都度、過誤を正して窓口の列に並び直す。いつしか周囲は淡く溶け、マダムの輪郭も朧になっている。多くの過誤を正したはずだが終わりが見えない。もっとちゃんと生きていれば良かったと後悔する。

 

「あなたは会話を履き違えています。会話はオモシロや価値観をぶつけ合うものではありません」

 

「あなたが"潔さ"だと思っているもののほとんどは"投げやり"ですよ」

 

「あなたは他者にエゴを押し付けないことが美徳だと思っていますが、それは違います。エゴを押し付け合い、それを許容することが人間関係なのです。あなたは只傷つきたくないだけなんですよ」

 

どれほどの時間が経っただろうか。もう何ヶ月もこうしているような気する。私はマダムの指摘により、自身の過誤に気付く。そして、自身を見つめ直し、正義を、思想を、道徳を、良心を、過去を、未来を、現在を省みる。視界の向こうに小さく悟りが見えてきた。窓の外に目をやると、ちらちらと雪が降っていた。季節はもう冬だ。マダムの服装も半袖から長袖に変わっている。

 

 

そうしている間に友人が帰国した。私は友人にプレゼントを手渡した。