緑黄日記

水野らばの日記

お金を渡す妖怪になる

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「髪型を変えました」とポートレートをSNSにアップする紫色ウルフボブカットの女性、私とカラオケに行ってくれる慈悲深い友人たち、手鏡で前髪を確認してから男子高校生に話しかける女子高校生、私は彼女らに対して「お金をあげたいな~」という欲求を抱く。特にウルフボブの女性、振り込み用の口座を教えて欲しい。

 

この欲求は喜捨とか社会貢献とか見返りの要求などではない。これは我が身可愛さからくる願望である。

 

私は社会に置いてけぼりを食らっている自覚がある。自己肯定感が倒錯しており、「自分は他者にとってなんの価値もない」と常に引け目を感じている。そうなると、私と相手の関係性において、価値の均衡が取れていないことに不安を覚える。ウルフボブの女性が私に明日を生きる活力をお与えなさったのに対し、私は彼女に何も返せていない。価値の均衡を保つために彼女らに価値を提供したい。しかし、前述の通り、私は自身に価値を見出していない。

 

そうして辿り着く、「もう、お金しかない」と。

 

目に見える価値として、他者に積極的にお金をあげていきたい。そして、人間関係の価値の不均衡を解消し、安心したい。こういう思考になるわけだ。できることなら、友人と遊ぶ時などは、初手でお金を渡して感謝を伝えたい。

 

この『お金をあげたい』という歪曲した欲求は、言い換えれば、他者に寄与する方法をこれしか知らないとも言える。これは、今後人生をやっていく上でよろしくないのではないか。このままではあらゆる場面でお金を渡す人間になってしまう。

 

恋愛という人間関係のレイヤーにおいても弊害は出るだろう。

 

私は、恋愛関係の妙味を知らずにここまで来てしまったため、健全な交際のいろはを全くというほど理解していない。私は恋愛においても相手に価値を提供する方法を『お金をあげる』しか知らないのである。

 

例えば、私が足繁く通っている喫茶店に可愛らしいお嬢さんが働いているとしよう。ポニーテール左右に振りながら店内を歩く姿が素敵だ。会計時には「"いつも"ありがとうございます」と笑顔をくれる。私は彼女に恋慕を寄せ、「うん、全然幸せにする」と思っている。なんとかして彼女の人生に寄与し、あわよくば、ふたりで役所に赴き、「私たちは番(つがい)の人間です」という証明書を提出したい。私は彼女との関係性を進めるため、コマンドを開く。コマンドには『お金をあげる』と『諦める』のふたつだけがある。

 

私は前者をセレクトする。

 

「あの、すみません」

「はい、いかがなさいましたか?」

「これ、ぞうぞ」

「えっ、なんですか?この札束は」

「あなたに貢献したくて。200万円あります」

 

もはや妖怪である。お金を渡す妖怪、金入道。贈与税もかかる。

 

他にコマンドはないだろうか。そういえば、私は友人などと会う時にトークテーマとそれに纏わるエピソードトークを考えていくことにしている。前夜に「こんな質問をして、質問を返されたらこんな話をしよう」とスマホのメモに書き込んだりしているのだ。これは、場を少しでも盛り上げて貢献しようという心の働きだ。彼女にエピソードトークを披露するのはどうだろうか。世の中の交際しているカップルはよく会話をしていると聞いたことがある。

 

「あの、すみません」

「はい、いかがなさいましたか」

「ちょっと聞いてもらっていいですか?」

「なんでしょう」

「"蚊に刺された箇所に熱いお湯をかけると痒みがひく"というライフハック知っていますか?先日、それを実践してみたんですけど、お湯を冷まさず、熱湯のままかけてしまって、腕を火傷しちゃいました。結果的には痒みどころではなくなったんですけどね」

 

全体的に間違えている気がする。エピソードも弱いし。社会と繋がる方法がこれしかなくなってしまった人である。役所の窓口でよく見る。これも妖怪の類だ。

 

もしも、彼女がアイドルであったなら話は簡単であったろうと思う。出演する舞台のチケットを買い、グッズを購入し、インターネットに絶賛のレビューを書き込む。彼女に寄与する方法はいくらでもある。これも大別すれば『お金をあげる』になるが、これはワンクッションある分、妖怪味は少ない。

 

「あの、すみません」

「はい、いかがなさいましたか」

「一緒にアイドルになりませんか?」

「は?」

 

正解ですね。これにします。