緑黄日記

水野らばの日記

パソコンデスクがやってきた

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先日、パソコンデスクと椅子を購入した。

 

私は根城である安アパートに於いて、基本的にパソコンと向き合っている。小学生の時分、悪いインターネットに当てられ、パソコンをおもちゃとして遊ぶようになった。私のトイ・ストーリーはパソコンのひとり芝居である。人生に向き合い、青春の酸いも甘いもを経験して大人への階段を確かな足取りで差昇る同級生をよそに、私はインターネットの世界に入り浸った。そして、ただただ年をとっただけのインターネットボーイへと成長を遂げたのである。現在、休日には「よ〜し、インターネットしちゃうぜ〜〜」と言って、パソコンを起動している。立ち上げ時に仕事場のパソコンのパスワードを打ってしまい、自分に失望する点が以前までの私と大人になった私との差分である。

 

私は大学進学を機にひとり暮らしを始めた。大学で友人がひとりも出来なかったことが、ますます私をインターネットの世界に入り浸らせた。この頃は、パソコンを眺め、狭い部屋の片隅でうずくまるだけの生活を送っていた。現在は社会人となり、ひとり暮らしは継続している。仕事の合間にパソコンを眺め、狭い部屋の片隅でうずくまる生活を送っている。

 

この間、私の起居する安アパートにはパソコンデスクや椅子といった類のものは一度としてなかった。布団にあぐらを掻いて座り、太腿の上にパソコンを置いて、ブルーライトを浴びるのが基本姿勢である。そんな姿勢では人体の要たる腰に負荷がかかる。当然の帰結として腰を痛める。そして、先日、ついに腰が爆発してしまった。爆発により四散し、フローリングに散らばった腰のかけらをかき集めながら、「椅子とデスクを買おう」と決心したのである。ひとり暮らしを始めて7年目、冬の出来事であった。

 

以前より、パソコンデスクを購入するかどうか悩んではいた。しかし、その度に踏みとどまった。年々、アラートの音量が大きくなる腰が度々裁判を起こすものの、その都度、「購入見送り」という判決が裁判長から言い渡されていた。これは、私が薄給の貧乏人であり、口座残高に翳りがあるのも理由のひとつである。しかし、もっと大きな事由があった。それは私にミニマリスト傾向があることだ。

 

私はたくさんの物に囲まれるのが好きではない。身を囲む物など少なければ少ないほどいいと思っている。不必要な物はガンガンに捨てていき、あまつさえ必要な物も捨てる。捨てるという行為が好きなのかもしれない。当然、私の起居する6畳の小部屋には物が少ない。細々としたものを除けば、マットレスと掛け布団と小振りなローテーブルと本棚しかない。これは「身軽」への憧憬からくるものであろう。

 

そんな私がこの手狭な6畳にパソコンデスクを増やすことに悩まないはずがない。パソコンデスクは欲しい。しかし、この6畳を積載オーバーさせる訳には行かない。人間が管理できる空間には限りがあるのだ。そういった葛藤の中、腰が多大な犠牲を払ったことで、彼の上告が認められる。「小ぶりなパソコンデスクを買う」というところに議論が軟着陸した。そうして、安アパートの6畳にパソコンデスクを鎮座させることにしたのである。

 

通販で購入したパソコンデスクが届いた。実際に家具店に赴かないことが、私がインターネットボーイである証左である。開封し、組み立てを行う。そして、6畳の端っこに行儀良く佇立するパソコンデスクを眺めてみる。私はその大きさに驚倒した。「コンパクトサイズ」と謳われていたものを購入したが、それでも尚この余りある存在感である。狭い6畳が一層狭く見える。「4本足でこの大きさ、四捨五入したら象じゃんかよ」そう思いながら、パソコンデスクをまじまじ見つめていると、部屋の隅からひそひそと声が聞こえてきた。

 

「何あれ、新しい住人?」

「大きいね。どうせ、すぐにご主人に捨てられるよ。この前もハンガーラックが捨てられたじゃん」

「そうよそうよ。ご主人は大きいものが嫌いなんだから」

 

既存の住人たるローテブルやマットレスや掛け布団たちが陰湿な会話をしている。私が睨むと、彼らはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 

「やあ、新参者さん、ようこそ。お前さんを歓迎するよ。まあ短い付き合いになると思うがね」

 

最古参である本棚が低い声でパソコンデスクに歩み寄る。彼は何十年と私の元にいるかのように振る舞うが、実際には2年前に購入したものだ。読書という私の趣味にあぐらをかき、自分は捨てられないものと高を括っているかもしれない。彼は先代の本棚が私の不注意で壊れ、すぐさま捨てられたのを知らない。

 

「やあ、私はパソコンデスク。ここが新しい家ですか。割と手狭ですね。すみません、お茶淹れてもらっていいですか?」

 

パソコンデスクは本棚の皮肉を意に介さず、超然と答えた。

 

 

 

トイ・ストーリーですか?見たことありません。