緑黄日記

水野らばの日記

「COあります」

f:id:rabamizuno:20201128212520j:plain

 

『人狼ゲーム』を知っているだろうか。

 

簡単に説明すると、『人狼ゲーム』とは「市民」「人狼」のふたつの陣営に分かれ、各陣営で協力し合い、勝利を目指すゲームである。「市民」は「市民」に紛れた「人狼」を各役職(能力)によって探し出して吊し、「人狼」は「市民」を装って寝首を掻き、それぞれ敵陣営を殲滅させていく。対話や推理を用いた頭脳戦のパーティーゲームである。

 

友人らと遊びに行った際、人生で初めて『人狼ゲーム』を遊んだ。

 

前々から、それこそ大学生の頃から、この世に『人狼ゲーム』というゲームがあり、広く遊ばれていることを知っていた。しかし、ゲームの内容はよく知らなかった。複数人で遊ぶこと、対話型のゲームであること、狼が悪い奴なこと、浮かれた大学生たちがお酒を飲みながら「へへへ、実は狼でした〜襲っちゃうぞ〜」「きゃ〜怖い〜」のような遊び方をしていることなど、断片的な情報をつなぎ合わせて『人狼ゲーム』のイメージを作り上げていた。

 

ここ数年、『人狼ゲーム』に限らず、パーティーゲームにはとんと縁がなかった。僕は大学に通っていた頃、友人が誇張なしにひとりも出来なかった。僕は当時、周囲に馴染めず、孤立していたのである。そして、そんな自分を守るために他者を否定し、キャンパス内で何かと群れをなす大学生たちを見て「他人に自分の輪郭を描いてもらいたくてたまらないやつら」と蔑んでいた。当然の帰結として『人狼ゲーム』で遊ぶ機会に恵まれなかったのである。大学を卒業し、遊びに出かけるような友人ができてからようやく気がついたのだが、ひとり暗い部屋で布団に包まるよりも友人と遊びに出かけた方が楽しい。大学生の頃の自分に「あなた、数年後に友人たちと『人狼ゲーム』で遊びますよ」と教えてあげたい。まあ、彼は「無理に決まってんだろ!過去の自分に見栄張んなし」と言って、布団に潜り込むだろうが。

 

初心者の僕に友人が『人狼ゲーム』のルールを説明してくれた。僕は「完全に理解した。万が一、多分ないだろうけど、わからないことがあったら挙手するわ」と彼に言って、意気揚々とゲームに参加した。ゲームマスターたるスマホを順々に回して配役がなされる。僕の役職は「人狼」だそうだ。早速、[人狼 振る舞い]で検索をかける。対話のターンに入ったあと、友人のひとりが言った。

 

「占い師シーオー。〇〇を占って、〇〇は市民だった」

 

早速知らない単語が出た。シーオー?C O?コーカサスオオカブト?それはC O Cでは?確か『占い師』というのは役職のひとつだ。占い師がコーカサスオオカブトに?はてなでいっぱいである。僕は手を挙げた。早くも右手の出番である。「『シーオー』って何ですか?」

 

人狼ではゲームの進行上、自分の役職を公然と告げ知らすタイミングがある。このことを『C O(シーオー)』と言うらしい。カミングアウトの略なのだそうだ。彼らだけの内輪ルールなのか、正式なルールなのか、この後も何度か『CO』というワードが飛び出してきた。別に言わなくてもいいらしいが、これは絶対に言った方がいい。そのゲーム独特のワードを使うことで没入感が出る。頭脳戦をしている雰囲気にテンションも上がる。あと、格好いい。僕も言いたい。その後、僕は『CO』というタイミングを伺い、何度目かのプレイでようやく「COあります。占い師です」と言った。めちゃくちゃ気持ち良かった。「COあります」と言ってからであれば、どんな秘密でも打ち明けられる気がする。

 

 

 

「C Oあります。〇〇さんのことがずっと前から好きでした」

 

僕は臆せずに言った。

 

正確には“臆せず言ったように見えるように”である。女性に好意を伝える場面で最も大切なのは昂然とした立ち振る舞いだ。なよなよヘラヘラもじもじと好意を伝える男に彼女との未来はない。彼女への真剣な恋慕を真摯に、実直に伝える必要がある。僕は緊張や不安、自信の無さを押し殺し、なけなしの勇気を集めて精一杯の虚勢を張った。全ては自分の真剣さを彼女へアピールするため、ひいては彼女との未来を切り開くためである。ちらりと彼女の方を見ると、彼女は頬をほんのりと染め、俯いていた。短く切りそろえた髪が少しだけ揺れる。

 

「〇〇さんへのアプローチがひとりか」

 

「まあ、前からそんな気もしていたけど」

 

「他にCOない感じですか」

 

「対抗でないんだったら決定でいいんじゃない」

 

ゲームの参加者が口々に言う。

 

「〇〇さんはどうですか?」

 

参加者のひとりが彼女に水を向けた。少しの沈黙のあと、彼女は口を開いた。

 

「COあります」

 

彼女は顔を上げ、こちらを向いた。くりくりとした大きな瞳が真っ直ぐに僕を捉える。僕は「相変わらず狸みたいでかわいいな」と呑気なことを考えてしまった。彼女は一呼吸おいてからゆっくりと言った。

 

「水野くんありがとう。嬉しい。でもごめんなさい、私、彼氏いるんだ。8個上の」

 

沈黙が辺りを包む。この場において、口を開けるのはもはや僕しかいない。粘性を持った重い空気の中、僕は意を決して声をだした。

 

「COあります。帰らせてください」