緑黄日記

水野らばの日記

野良猫と遊ぼう

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近所に野良猫たちがいる。

 

約1ヶ月前にここ、京都の外れにある2階建てのアパートに引っ越してきた。住宅街にある外観が少し古臭い安アパートである。転職を機に、『舞妓さんの格好をしているのは大体観光客』でお馴染みの京都に引っ越してきたのだ。京都生活1日目、僕はレンタルしたバンから新居へと段ボールを運び込んでいた。そんな僕を見つめる白い影がある。『猫ミャーず』(僕はこう呼んでいる)だ。彼らは白い被毛を中心とした白猫の集団で、「これで個体を識別してください」とでも言うように、それぞれの耳や背中や頭、尻尾などに異なる色や模様をつけている。鼻は一様に丸く、一様に美人顔である。首輪はない。どうやらこの近所に住み着いている野良猫のようだ。ああ、このアパートに決めて本当によかった。

 

猫ミャーずの団員とは通勤途中や散歩中、ゴミ出しの時などによく出くわす。僕の住んでいるアパートの廊下や階段で寝転んでいることさえある。彼らは人間慣れしているのか、はたまた僕の清い心を感じ取っているのか、おそらく後者であるが、近づいてもほとんど逃げることはない。時にはゴロニャンと横たわり、「ほら、撫でろ」とおなかを差し出す。そして「ミャー」と鳴く。僕は彼らに会うと、彼らを観察したり、お腹を失礼してもふもふとしたり、写真を取ったり、相談を持ちかけて「ミャー」と助言を貰ったりしている。

 

先日、散歩をするために外に出ると、住宅街の路地の端でふてぶてしく横になる団員の一人、もとい一猫を見つけた。彼は暢気にあくびをしながら通りを行く人間たちを仰ぎ見ていた。僕は立ち止まり、しゃがんで彼の顔を覗き込む。彼は僕を一瞥すると大きなあくびをし、目を瞑って丸くなった。

 

僕は彼の一挙手一投足、一パタパタ尾をじっと見ていた。本当に可愛い。猫のように可愛い。なぜこのように可愛いのか。丸い鼻、ころころとした耳、時折動くふさふさの尻尾。白い被毛におしり周辺の薄茶色がご飯のおこげを連想させる。可愛い。今度からはおこげも愛でようかしら。可愛い。可愛すぎる。吸いたい。

 

僕は、手を伸ばし、彼のお腹をもふもふと触り、彼にミャーミャーと話しかけた。さすがに人語で話しかけると、110または119に通報される可能性があるので自重しておいた。以前、これは大阪時代(※豊臣秀吉の天下の頃ではない)であるが、地面に寝転がる野良猫とお話しした後、立ち上がって振り返るとマダムが立っていたことがある。彼女は驚いた様子で口を金魚のようにパクパクさせていた。そして、顔には『警察』の2文字が。

 

僕はしばらくの間、彼のお腹を撫でて、ミャーミャーと話しかけていた。そうしている間、何人もの人間たちが僕と猫の横を通り過ぎていった。彼らは猫のことを歯牙にもかけず、ふふんと歩き去っていった。生意気である。猫のように可愛い造形で生まれなかったばかりにいそいそと働かなくてはならない動物のくせに。大方、好きなものの前でもはしゃがず、世間の作り上げた『大人ロール』に従うことが大人だとでも思っているのだろう。全く、これだから人間は愚かである。好きなものを好きと言い、好きなものを全力で愛でる、それが大人である。

 

「なー、君もそう思うみゃー?」と僕は彼に言った。彼は「そうミャー、人間は大人を履き違えているミャー」とでも言うように尻尾をひらひらしていた。僕からはそう見えている。ひとしきり彼を愛でた後、僕はお暇することにした。いつまでも僕の相手をさせていては申し訳ない。彼には彼の生活もあるだろうし。周囲を見渡して誰もいないことを確認すると「バイバーイ」と別れの挨拶をし、散歩を再開した。

 

その日の夜、僕はシャワーを頭から被りながら、脳内で本日の反省会を開催していた。この出来事が議題に登った時のことである。ひとりの出席者からある提言があった。

 

「えー、本日、私、私というか我々は地面で丸くなる猫を撫でていましたが、この時に猫を歯牙にもかけずスタスタと通り過ぎていった大人たちがいましたよね。彼らは『大人ロール』によって猫を無視していたのではなく、猫のお腹をさすりながら「ミャーミャー」と言っている不審な男性の方を無視していたのではないでしょうか」

 

助けてミャー