緑黄日記

水野らばの日記

Hump Backと街灯の光

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仕事からの帰り道、僕はお惣菜の入った袋を片手に引っ提げ、ぶらぶらさせながら歩いていた。

 

各地で緊急事態を告げる宣言が出された。時間が進めば、僕が住む京都も同じような状況に陥るであろう。僕の勤務する学校も昨今の情勢、世の動きに適応するため、てんてこ舞いである。僕も一応ではあるが、学校を運営する人間のひとりなので、見様見真似でてんてこを踊っていた。忙しい。今日も帰りが遅くなってしまった。

 

歩き慣れた路地を歩く。少し立ち止まり、街灯を見上げた。僕は街灯に向かって、「最期は誰かを照らす街灯になりたいな」と何気なく呟いた。街灯は返事こそしてくれなかったが、「話くらいなら聴くよ」とでも言うように優しい光で僕を照らした。

 

街灯を見上げていると、視線の先、街灯の向こう側にアパートのベランダで寄り添うふたりを見つけた。若い男女である。恋人同士であろうか。触れるか触れないか程度に身を寄せ合っている。彼らはベランダの手すりに持たれながら、同じ方向の空を見上げていた。僕は振り返り、彼らの視線の先に目をやった。

 

満月だ。

 

夜空にはまん丸の月が浮かんでいた。綺麗である。真っ黒の画用紙に開けた穴から光が漏れているようだ。僕は少しの間、黄金色に輝く月にうっとりしてから、ふたたび彼らの方に目をやった。彼らは相変わらず、小鳥のつがいのように寄り添いながら月を見上げている。

「月の光って心地がいいよね」

「だって月は間接照明だもの」

そんな会話が聞こえてきそうである。月は明らかに彼らを照らしていた。僕ではなく彼らを。この路地の主役は紛れもなく、彼らであった。月に照らされる男女、これだけで物語が転がっていきそうである。僕は完全に路傍の石ころであった。僕はこの場にいるのが急に恥ずかしくなってきた。片手に提げたお惣菜のビニール袋が気恥ずかしい思いを助長する。僕はさっきまで相手をしてくれていた街灯をすがるような思いで見つめた。月に照らされなくても、僕には街灯がいるのだ。街灯は「いやいやいや!荷が重い荷が重い!」と、僕を突き放すように光を放っていた。

 

(物語口調はここで一旦終わりです)

 

今の仕事を始めて数日が経った。毎日、しっかりと職場に行って、言われるがまま頭と手を動かしている。朝に家を出て、夜にまた家に帰ってくる生活である。仕事や仕事にまつわる勉強以外に何かをする隙間がほとんどない。仕事をしていると、仕事をしているだけで何かを成し遂げたような、仕事をしているだけで何者かになったような気分(僕が仕事の「お金を稼ぐ手段」の側面を大きく捉えているためです)になる。今日も同様だ。しかし、この日この今日は、何のために存在したか。どう考えても、好きな女の子と、大切な人と一緒に月を見上げるためである。

 

Hump Backというロックバンドがある。ギターボーカルの林萌々子をセンターに添えた女性3人組のロックバンドだ。僕はこのバンドが大好きなのだ。本当に格好いい。彼女らの楽曲に『今日が終わってく』がある。

 

 


Hump Back - 「今日が終わってく」Music Video

 

月に照らされた『路地の主人公』たる男女から逃げるように自分の根城に帰った後、ノーバウンドでこの曲を聞いた。林萌々子の熱い歌声を、シンプルかつ骨のあるサウンドが盛り立てる。めちゃくちゃに格好いい。

 

この楽曲の中で、林萌々子は『今日が終わっていくけど、このままでいいのかい?少年よ。「君」に会えずに、何も言えずに終わって大丈夫かい?」と歌っている。そうなのだ。今日という日は、ショートボブで狸顔の可愛い女の子に「好き」と伝えて頬を赤く染めさせ、お風呂上がりの彼女に「ごめん!バスタオル忘れた。バスタオルとって!」と言われ、最終的に寄り添いながら同じ月を見上げるためだけの今日だったのだ。どう考えても仕事して、Twitterして、ご飯を食べて、Twitterして、シャワー浴びて、Twitterして、泣きながら眠るだけの今日ではないはずだ。何なんだ、この様は。助けてくれ。

 

 

Hump Backのライブも開催見送りになってしまいました。強く生きたいです。