緑黄日記

水野らばの日記

学校の先生になりました

f:id:rabamizuno:20200404190610j:plain

 

学校の先生になった。先生は大変である。これから生徒に会って、保護者に会って、授業をしてと、これまた大変な日々が始まるであろう。頑張らないためにそこそこ頑張ろうと思う。

 

学校の先生になったからにはやりたいことがある。

 

「物語中の学校あるあるを実現させたい」

 

させたい。めちゃくちゃさせたい。小説や漫画やアニメ、映画などのフィクションはたびたび学校が舞台になる。我が国には義務教育という制度があり、国民の多くが学校を経験している。そのため共感を得易いのであろう。そんなフィクションの中で、もはや様式美とも言える学校に対する共通理解が広がっている。しかし、それは実際とは解離したものであって、現実はそう甘くない。

 

例えば、フィクションの中で「屋上でお昼ご飯を食べる」というムーブが散見される。僕の敬愛する羽海野チカ先生の作品『3月のライオン』でも、主人公の桐山零が屋上でひとりご飯を食べるシーンが何回かある。これはフィクションの中の学校あるあるなのだが、実際をいうと、屋上は基本的に鍵がかかっている。また、生徒が立ち入れるような屋上のない学校も多い。こういった学校あるある(ないない)を実現させていきたいと思う。だってその方が面白いから。とんだ愉快犯なので。

 

「生徒会に絶大な権力を持たせたい」「オカルト研究会を作りたい」「風紀委員に腕章をつけさせたい」「全体朝礼で校長に長々と挨拶をさせたい」「バニーガールの格好をして文化祭でギターをかき鳴らしたい」

 

などなど沢山やりたいことがあるのだが、とりわけてどうしても実現させたい夢がある。

 

「理科準備室を訪ねて来た生徒にコーヒーを淹れたい!!!」

 

淹れたい。アルコールランプを使ってコーヒーを精製し、出来ればビーカーに注ぎたい。そして、理科準備室を訪ねてきた生徒に勧めたい。絶対にしたい。このために理科の先生になったと言っても過言ではない。

 

 

「失礼します。水野先生いますか?」

丸刈りの少年が理科準備室のドアをガラガラと開けた。

「あ、いるよいるいる。めちゃくちゃいる。あ、中村さんどうしたの?」

私は液体を混ぜる手を止めず、顔だけ彼の方に向けた。

「クラスの理科のノート集めて持ってきました」

「ありがとう。ご苦労様。その辺に適当に置いといて」

私は入り口付近にある黒色の台を顎で指した。

「ここ置きますね。あ、それなんですか。コーヒーの匂いがする」

彼は私の手元にある化学実験のような装置に関心を寄せた。15オンスほどの透明な円柱の容器に極彩色の液体が沸沸と煮立っている。その下には丸型フラスコのような容器があり、さらに下ではアルコールランプの火がゆらゆらと揺れている。

「そうそう、コーヒーを煎れてるの。サイフォン式って言ってね、まあ詳しい原理は置いといて、美味しくコーヒーを飲むための抽出方法なんだよ」

「へぇ、すごいですね」

「君も飲むかい?幸村先生の分も煎れたけど、帰ってこないから」

私はそう言うと、アルコールランプの火を消して、コーヒーを薬さじで攪拌し、下の容器にコーヒーを落とす。そして、それを2つのマグカップに丁寧に注いだ。彼はそれを物珍しそうに見ていた。

「はい、どうぞ」

彼は立ったままコーヒーを受け取ると、陽炎のように湯気が立つコーヒーをふうふうと冷ました。

「じゃあ、いただきます」

口を尖らせて、コーヒーをチョビチョビと飲んだ。

「ああ、苦いですね、やっぱり」

彼は笑いながら舌を出して言った。私は悪戯っぽく笑って返す。

「少年、それが大人の味だよ」

 

いつの間にか、黒髪ロングヘアーで白衣を着た28歳独身、化学担当の美人お姉さん先生になっていました。そして、どうやら理科準備室に僕の席はないみたいです。早くも暗礁に乗り上げました。