緑黄日記

水野らばの日記

お引越しと夢のキャンパスライフ

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お引越しをした。大学時代から住んでいる大阪の安アパートから、京都の、これまた安アパートに引っ越したのだ。引越しは大変である。不動産屋さんに言われるがまま万札を捧げているが、何の代金かは全くわからない。しかし、「あ、そのお金ですか。そうですよね、当たり前ですよね」という顔でやり過ごしている。

 

6年前の春、大学進学を機に大阪の安アパートに引っ越してきた。当時のことを思い出す。

 

春爛漫の折、麗かな春光に照らされながら僕はこのアパートに引っ越してきた。

島根県で田んぼの畦道をポテポテと歩いていた小さきお子様だった僕がコンクリートジャングルたる大阪でひとり暮らしを始めるのだ。ワクワクしないわけがない。心が躍るし、体も躍る。脳内で開かれる自分会議の列席者も踊っている。これから輝かしいキャンパスライフが始まるのだ。恋にバイトに勉強に、てんてこまいの充実した日々たちがありありと浮かぶ。

 

お部屋の窓を開ける。やわらかな春の風、春の匂い、そして春の光が舞い込む、といった妄想をしながら目前のコンクリートの壁を睨み付ける。ベランダは無く、唯一の窓の1メートルほど先にはコンクリートの壁がそびえ立ち、日光がほとんど遮られている。『日照権』というワードが頭に浮かぶ。しかし、些細なことはどうでもいい。これから夢のようなキャンパスライフが始まるのだ。

 

振り返って部屋を見渡す。部屋は引越しの余韻を引いており、煩雑である。段ボールが積み上がり、現代アートの様相を呈している。これらを理路整然に片付けなければならない。また、床の埃を払い、水回りをピカピカと磨かなくてはならない。そして、これを保ち続ける必要がある。

これから夢のキャンパスライフを謳歌していく中で、この部屋には多くの人間が出入りすることであろう。その中にはショートボブで狸顔の可愛らしい女の子もいるはずである。

後輩の可愛らしい女の子に「先輩、ご飯連れて行ってくださいよ」と言われる。お洒落なイタリアンでお洒落なパスタを食べる。僕の小粋なトークに彼女はからからと笑う。河岸を変えて和風居酒屋でお酒を飲む。彼女の目がとろんとしてくる。閉店間際、「先輩、飲み足りないのですが」と彼女が言う。そして流れるように僕の根城に。

こんなが起こるであろう。完璧だ。それに備えて、お部屋を常にキレイキレイにしておくことが必須となる。

「先輩の部屋、綺麗ですね」「そう?物がないだけだよ」予行演習はバッチリである。

 

外に出る。少し歩くと僕が通う予定の大学が見える。お部屋を慌てて決めたこともあり、立地に拘っておらず、アパートは大学のすぐ近くになってしまった。これは後に計測したのだが、大学まで200歩ほどの距離しかない。大学の近くに一人暮らし、これは確実に溜まり場になる。友人たちが便利な場所として僕の部屋に寄り集まってくるだろう。友人たちと夜中までカラオケでワイワイガヤガヤとした後、「明日、1コマあるから水野の家に泊まるわ。大学近いし」と数人がヒョコヒョコと付いてくる。そして結局、朝まで麻雀して過ごすのだ。少し疲れるであろうが、これもまた一興。これも光り輝くキャンパスライフの一部である。

 

結論から言うと、大学では彼女はおろか友人がひとりも出来ず、完全に杞憂でした。こんなに綺麗な杞憂ってあるのですね。『杞憂』が生まれるより先に僕が生まれていたら、僕が杞憂という意味の古事成語になっていたかもしれません。