緑黄日記

水野らばの日記

沈黙が怖すぎる

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先日、クライアントと商談という名のお話し会をした。僕は仕事をお遊戯だと思っている節があるので、商談をお話し会と呼んでいる。お話し会は無事終わり、帰る準備をしていると、こちらの上司と先方のおじさんが「ちょっと待っといて」とどこかへ消えてしまった。12畳ほどの会議室には僕と先方の青年が残された。気まずい。地球から人類が消滅し、僕らだけが取り残されてしまったような沈黙が2人を包む。空気清浄機が少しでも沈黙を和らげようとプシューと声を上げてくれているが心もとない。僕は思い切って口火を切る。

「今日はありがとうございました。この後会社に戻られるんですか」

「そうなんです。仕事が残ってて」

「大変ですね」

再び沈黙が部屋を覆う。

僕は平静を装いつつも頭の中はてんやわんやである。助けてくれ。何か、何か喋らなければ。僕は起死回生の一手を探して雑談の引き出しを手当たり次第開けまくる。しかし、開けるも開けるも引き出しは空っぽである。16番目の引き出しを開けると何か得体の知れないものを見つけた。僕はそれを確かめもせずに口から放り投げる。

 

「将来、娘が生まれたら、させたい習い事とか決まってます?」

 

最悪である。なんだこれは。青年は怪訝な顔をしている。僕は続ける。もうこうなると止まらない。

「僕はですね、まずピアノですよね。身体動かして欲しいんでバレーとかもいいですね。後、ニッチなところ攻めたいですよね。短歌教室とか」

青年は訝しげな顔で僕に問う。

「娘さんがいらっしゃるんですか?」

当然の疑問である。僕も当然のように返す。

「いや、いないんですけどね」

青年は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。ああ、これが『鳩が豆鉄砲を食らったような顔』か、と思った。

 

沈黙が苦手だ。怖いのだ。沈黙を破れるなら千円札に火をつけるくらいならやってしまうかもしれない。僕は常々、人間関係の中で『絶対に面白い人間だと思われなくては』というプレッシャーと戦っている。それは親しい間柄、長く付き合ってきた間柄でも感じている。初対面などなおのことだ。このプレッシャーが沈黙への恐怖を生んでいる。分析してみると身勝手なものだなと思う。

 

そんな性格と、僕の元来の人生下手が合間って結果的にこのような自爆が生まれる。この前は取引先のおじさんと話を続けよう続けようとするあまり、献血の話から「売血をしたいんですよね。でも、こう売血はできないんで、パチンコ屋みたいに献血したらもらえる粗品をなぜか買い取ってくれる施設が横にあればいいと思うんですよね」という話をした。おじさんは『こいつ、マジで何考えて生きてるんだ』という顔をしていた。