緑黄日記

水野らばの日記

メイドさんに童貞を奪われた話

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最初に断っておくがこれは下ネタではない。

 

大学生の頃、人生で初めてUSJに行った。あの大阪の巨大テーマパークである。『ユニバ』ではなく『USJ』と言っているのは島根出身のシティボーイとしてのプライドである。大阪とかいう田舎民とは育ちが違うのだ。

我々のパーティーは僕と大学の先輩の女性3人、計4人という構成であった。異性の後輩という立ち位置であるが、蝶よ花よと扱われていたわけではなく、彼女らは僕を襲微動具としか思っていない。こう、いじられの、いじられの人だ。

 

その時期はハロウィンの季節であり、USJに赴く人々たちはめいめい自分好みの仮装をすることが習わしであった。そこで、我々のパーティーも仮装をすることとなった。USJに行く数日前の作戦会議、先輩の1人が「メイドさんにせえへん?」と提案し、他の2人もそれに賛じた。僕の頭の中では『?』が飛び跳ねていたが、僕にイエッサー以外の返答は許されていない。後輩なので仕方がないのだ。こうして我々は4人のメイドさんとしてハロウィンのUSJに参戦することとなった。そのうち1人は成人男性である。初恋の相手は『カードキャプターさくら』の『木之本桜』である成人男性だ。

 

もう、この時点でタイトル回収は完了である。USJデビューに成人男性がメイドさんの格好をしたという話である。それ以上でもそれ以下でもない。

 

当日の朝は気持ちの良い秋晴れであった。電車を乗り継ぎ、USJの最寄り駅のホームに降りる。人が多い。馬鹿みたいに多い。これが全部USJに行くのかと驚倒した。『ユニバーサルシティ駅』がUSJ専用の駅であることは初めてこの地を訪れた僕でも想像に難くない。前方を蠢く黒々とした後頭部たちが、意思を持った一つの大きな生き物のようにも感じた。驚きで急に文学的な表現にもなる。

 

改札前で先輩3人と落ち合い、USJの入り口まで向かった。駅からUSJまでは「ユニバーサル・シティ」と呼ばれる一帯で、そこは、もうすでにUSJの世界観が始まっていた。まるでお金持ちの家の子のおもちゃ箱の中のようだった。

 

入場ゲート前の長蛇の列に並び、チケットを購入した後、僕は人生初のUSJに足を踏み入れた。入場ゲートでクルーのお姉さんが「ハッピーハロウィン!」と声をかけてくれた。彼女は満点の笑顔だったが、少ししゃがれた声が朝だというのに疲れを感じさせていた。

 

我々は仮装するべく奥の方のトイレに向かった。園内は思い思いの仮装した人々、もとい、本物のゾンビやミニオン、囚人たち、マリオや魔女が闊歩していた。まるで仮装行列である。

 

比較的人気の少ないトイレに入り、個室で先ほど先輩に手渡された衣装の包装を紐解いた。僕は赤ずきんの衣装を両手でつかみ、広げてまじまじと見る。(まじか…)と思ったし、「まじか…」と口に出していた。覚悟を決め、黒いてかてかした丈の短いワンピースを着る。そしてテーブルクロスから切り取ってきたような白い前掛けをかける。頭には真っ白なフリルのカチューシャ、そして最後に前日に買った120デニールの黒タイツを履く。靴は真っ黒のローファーである。トイレの個室から出ると小さい男の子と目があった。彼は「おとーさん!女の子ー!!おとーさん!!!」と助けを求めるよう叫んだ。

 

トイレから出ると見慣れたメイドさん3人がいた。似合っている。それはそのはずである。彼女らは可憐な女性だ。女の子生まれ女の子育ちの可愛い女性である。彼女らの中に成人男性がひとり混じることになる。

 

先輩たちに化粧をしてもらった。口に赤い何かを塗り、目には黒色の何かを引き、頬には柔らかい何かでポンポンとした。彼女らは放課後の女子高生のようにキャッキャと笑いながら僕の顔をキャンパスにして遊んでいた。化粧をしてもらった後、もう一度トイレに入って鏡で顔を確認した。ちょっと可愛いなと思った。

 

もう読者諸賢はお分かりだろう。そう、ノリノリである。

 

USJの園内をメイドさん4人組が闊歩する。うち1人は成人男性である。好きなタレントは筧美和子の成人男性である。

 

ザ・フライング・ダイナソーというジェットコースターがある。翼のある恐竜プテラノドンに背中を掴まれ、空中を舞い、ジュラシック・パークの中を360度振り回さる。我々はこのアトラクションを楽しむことにした。

 

ここでUSJのシステムのひとつ、『シングルライダー』を紹介したい。アトラクションの普通の順番待ちの列とは別に、1人が優先的にアトラクションを利用できる列がある。4人乗りの乗り物に3人グループが入り、1人分の空席ができた場合にシングルライダー利用者が優先的に案内されるというものである。ひとりで別のグループと乗り合わせることになるが、普通の列に並ぶよりも数倍早くアトラクションに辿り着ける。

 

シングルライダーの列が空いていたこともあり、先輩の1人が「シングルライダーにせえへん?」と提案し、残りの2人もそれに賛同した。彼女らは僕が1人になるということの危険性に気づいていない。もしくは気づいていた上でウケると判断したのか。彼女らは僕のことを歯牙にもかけずシングルライダーの列に並んだ。僕もそれの後に続いた。僕に抗弁権はない。後輩なので。

 

順番待ちの列が進み、我々の番が来た。メイドさんがひとりずつ恐竜に連れ去られる。僕はひとり後輩なので当然のことながら最後まで恐竜に連れていかれることはない。先輩ら3人がプテラドンに連れ去られた後、列の先頭で地上に取り残される僕、もとい、女装ハロウィン浮かれミニスカ野郎である。僕は周囲に「違うんです!ひとりで来たんじゃないんです!」と言い訳を声を大にして叫びたい気持ちでいっぱいだったが、もういい大人なのでやめた。いい大人はメイドさんの格好をしてUSJに来ないが。

 

遂に僕の番が来た。やっとである。メイドさんの格好でひとり残される時間は永遠にも感じられた。覚悟を決めて歩みを進める。すると、クルーのお姉さんに「落ちると危ないので前掛けとカチューシャは外してください」と言われた。最悪である。僕はミニスカてかてか黒ワンピースを着ていて、その上に白い前掛けと頭には真っ白なフリルのカチューシャという出で立ちである。白い前掛けと白いカチューシャを身に着けているからギリギリメイドさんとしての体裁を保っていたのに、これらを取ると、これはもう、普段着がこれの人である。

 

そして、これまた最悪なことに一緒にダイナソーにフライングされる3人は麗らかな女子高生であった。もう助けて欲しい。僕は必死になって自虐ジョークを交えつつ、自分は怖い人ではないこと、そして、このおかしな現状のいきさつを喋った。勢い余って好きなタレントが筧美和子であることも喋った。全コミュ力を総動員させた甲斐あって少しウケた。

 

ザ・フライング・ダイナソーは楽しかった。

 

我々はその後も様々なアトラクションに乗った。僕も初めてのUSJを思いっきり楽しんだ。

レストランの店員さんに「メイド君かな」と執拗に喋りかけられた。全く同じメイドさんの仮装をした女の子たちと計7人で撮り、写真を見ると僕だけ足が開いていた。スパイダーマンのアトラクションで、これまたシングルライダーで乗ったら、乗り合わせた親子が、僕が隣に座るとわかると、僕、娘、父、息子の順番で座っていたのを無言で、僕、父、娘、息子の順に変えた。地球のでっかいモニュメントの前にてひとりでカーテシーのポーズを決めて写真を撮ってもらっていたら、バニーガールのギャルに「映(ば)え~」と言われた。

 

映え~