緑黄日記

水野らばの日記

犬かキャットかで死ぬまで喧嘩したい

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良い人生である。

 

新入社員として先の春から入った会社は8時間くらい遊んでいるだけでお金がも貰える。金額は一般的な新卒1年目のそれだが、貯金をする気が全くなく、大金を浪費する趣味もない僕にとっては十分だ。余裕で楽しく生きていける。休日は専ら、本を読んだり、グミを食べたり、音楽を聴いたり、サッカーを観たり、散歩をしたり、地図を眺めたりしている。また、このブログや僕のTwitterを、檻の外から奇怪な動物を観る心地で読んでいる読者諸君はご存知であろうが、野良猫に話しかける姿をおばさんに目撃され不審者になったり、『もし学校の先生になったらやりたい事リスト』を編纂したり、『ご自由にお取りください』となっていたアサガオの苗を拾ってきて会社の敷地内にある植え込みに勝手に植えたりしている。

 

誠に良い人生である。理想の老後だ。しかし、ここには一つ問題点がある。滅茶苦茶にひとりなのだ。僕は、彼女はおろか友達もいない。上記の行動は全てひとりで行っている。このままではやばいジジイになってしまう。やばいジジイになり、ご近所に名声を轟かせるのも一興ではあるが、これはできれば避けたい事態だ。『孤独は人を狂わせる』と言ったのは誰だったか。孤独感は人をやばいジジイにするのだ。

 

ああ、彼女が欲しい。好きな女の子の好きな人になりたい。好きな女の子と人生の一端を分かち合いたい。今日あったことを聞いてほしいし、今日あったことを聞きたい。僕だけの単独コンサートを開いてほしい。外ハネショートの可愛い彼女の外ハネ部分に腰かけて休みたい。犬と猫どっちが可愛いか喧嘩をしたい。

 

僕の大好きな曲に『犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう』というものがある。これまた僕の大好きなバンド『Official髭男dism』、通称『ヒゲダン』が歌っている。今話題の、お洒落ピアノお洒落ポップバンドだ。

 


Official髭男dism - 犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう![Official Video]

 

僕はこの曲がめちゃくちゃ好きなのだ。これからずっと一緒に、犬か猫どっちが可愛いか喧嘩するようなささやかな日常を2人で過ごしていきたいという曲である。分かる。

 

僕は彼女と過ごす日常に思いを馳せる。無論、ここから妄想タイムである。

 

 

「みてみてー!この動画すごくかわいくない?」

彼女がスマホの画面を僕の鼻先に押し付けてきた。邪魔である。これでは太宰治先生の美しい文章が読めない。僕は仕方なく本を置き、彼女の持つスマホに視線を移す。小さいコーギーがこれまた小さい赤ちゃんの後ろに続いてよちよちぺたぺたぽこぽこよたよたと歩いている。動画を観終わると、僕は彼女に言った。

「確かに可愛い。しかし、猫の方が可愛い。これは揺るがない。そんな動画では僕は懐柔されない」

 

我々は気が合う、まぁ付き合っているので当然ではあるが、気が合うのだ。二者択一の質問、所謂『あなたはどっち派』に対して概ね同じ回答を得る。朝はパン派だし、ショートケーキの苺は最初に食べるし、映画はエンドロールまで見る。あと、山はキノコ派だ。しかし、そんな気の合う我々が意見を食い違わせるものが一つだけある。犬派猫派だ。我々は言い合いに言い合いを重ね、相手を懐柔しようとあの手この手を用いている。『犬の可愛い動画を見せる』が犬派である彼女の主な戦法である。対して、狂信的猫派である僕は、猫のように気高く生きることで猫の良さを伝えようとしている。しかし彼女には何も響いていない。

 

「あー犬可愛いなー!猫よりやっぱり可愛いな!犬は可愛いな」

彼女はソファに寝転んで、同じ動画を繰り返し見ている。くりくりとした垂れ目を一層くりくりさせて、画面の中の犬を愛でている。

 

彼女はたぬきに似ている。くりくりした垂れ目を始め、ぽてっとした輪郭、丸みのある鼻、そして柔らかな口調。たぬきが喋ったところは見たことがないが、多分そうなのであろう。彼女曰く、実家の勉強机に信楽焼のたぬきを置いていたら、どんどん似てきてしまったらしい。

 

彼女は起き上がって、僕の横に座った。

「ねぇねぇ、一緒に住むなら犬と猫どっちがいい?」分かり切ったこと聞くものだ。大方、僕が「猫がいい」と答えたのに反抗したいのだろう。いつものことである。僕は彼女の方を向いた。彼女と視線がぶつかる。彼女は僕を真っ直ぐに見つめている。僕は言った。

 「一緒に住むならか、そうだな、たぬきがいいな」

 

 

ヒゲダンの曲、めちゃくちゃ良いから聴いてね!というお話でした。