緑黄日記

水野らばの日記

教育実習の思い出を語る

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教員免許も持っている。

 

当然、教育実習を経ている。今日は教育実習での完璧な、非の打ちどころのない、完全なミスをした話を語ろうと思う。

 

僕が中学校で教育実習をした期間、季節は秋の初め頃であった。実習は1か月と長く、教室の窓からは季節の変化がありありと感じられた。気温は徐々に下がり、空は段々と高くなり、青々とした木々の葉はその身を枯らしていった。

 

教育実習の期間内にその中学校では文化祭があった。僕はその文化祭で劇を披露するという自分の受け持ったクラスの指導にあたっていた。めいめいに散らばる男子を集め、劇の台本の日本語を直し、男子を集め、舞台バックの段ボールをガムテープで補強し、対立する女子たちを和解の方向へ導き、男子を集め、カッターで指を怪我した女の子を保健室まで付き添い、男子を集め、そしてまた男子を集めた。男子、散らばるなよ。

 

僕の頑張りが功を奏したのか、はたまた中学生の成長が恐るべきスピードだったのかはわからないが、徐々に劇の準備や練習は進むようになってきた。男子もちょっとずつ目の届く範囲で散らばるようになった。助かる。

 

あるホームルームで生徒たちに感謝の意を伝えられた。文言が完全に月並みだったため、大方、僕の指導教員であるクラスの担任に促されたのだろうと見当がついたが、大げさに喜んでおいた。僕も教員見習いとしての矜持はある。そして、彼らは僕に劇のカーテンコールに出演してくれないかと言った。カーテンコールとは劇の最後に出演者や裏方が舞台上に現れ、観客に挨拶するあれだ。僕はもちろん快諾した。

 

そして本番である。劇は順調に進んでいった。仲の悪かった女子2人はそんな内情をおくびにも出さず演じ切った。滅茶苦茶だった日本語はちゃんと意味の通るようになっていた。舞台バックの段ボールについた血はペンキを重ね塗り、目立つことはなかった。舞台袖からちらちら見切れる裏方を担当した生徒たちも満足げな表情をしていた。演者たちは最後まで役を全うし、劇は無事終幕を迎え、カーテンコールに移った。僕は観客席でパイプ椅子に座り、後で生徒たちにかける言葉を探していた。

 

そう、観客席で。

 

自分がカーテンコールで紹介されることを完全に失念していたのだ。カーテンコールで演者、監督、衣装、大道具担当などが順番に紹介されるのを僕は客席で見ていた。自分の失態に気付かない阿保面で(いやーよかったよかった)なんて呑気なことを考えていた。そんな僕をよそにカーテンコールは進む。そして、マイクをもった女の子が「教育実習生さん!!!」と舞台袖にいる筈の男を呼んだ。しかし、その男は現れない。何故ならその男は観客席でパイプ椅子に座っているからだ。観客の拍手が徐々に音量を下げていく。舞台上の生徒たちはきょろきょろと下手と上手の舞台袖を交互に見ていた。僕は自分の失態に気づき、意識が遠くなっていく。人間って本当に意識遠のくのだと少し感心する冷静めいた自分もいた。コンマ1秒あるかないかの間、観客の拍手が完全に途切れた、マイクを手にした女の子は状況を察し、僕の次に呼ばれる手筈であった担任の名を呼んだ。担任の先生は舞台袖からステージ中央に出てきてお辞儀をした。観客たちは改めて拍手を送った。

 

その後、クラスの担任である指導教員には滅茶苦茶に怒られた。成人男性がこんなに怒られることってあるのかと僕は思った。