緑黄日記

水野らばの日記

行かなかった卒業式に想いを馳せる

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先日、大学の卒業式があった。正確にはあったらしい。「らしい」と表現したのは僕が出席しなかったためだ。僕はちゃんと確かめたことでないと断定するのは控えている。群馬県も実在する「らしい」し、石原さとみも本当にいる「らしい」。

 

僕は今年度で5年間通った学び舎を巣立つ。1年前に同級生たちを見送り、1年間のモラトリアムを謳歌した後の卒業だ。留年したのは『やな宿題はぜーんぶゴミ箱に捨てちゃえ』と歌っていたおジャ魔女世代なので仕方のないことである。結果、毎日とはいかないまでも週5日くらい日曜日になった。

 

授業の中には4年連続で教授に敗北したものもある。そのため学部の後輩に試験の過去問を貰うというパラドックスをも発生させた。周りからダサいと思われることなど知ったことか。学部5年生は形振り構っていられないのだ。後輩に過去問を渡された時、そんな目で見ないでくれと思ったし、「そんな目で見ないでくれ」と言った。

 

そんな困難もありつつ、己のプライドを生贄に単位を錬成し、人類の夢といわれる『学部6年生』という未来を奇しくも回避した。

 

卒業式には出席しなかった。留年していることや大学では交友関係がほとんどなかったためである。人生をしっかりと歩んでいればこんなことにはならなかったのにと後悔する。あの時こうしていれば、あの日に戻れたら。後悔はつきないものである。僕は人生をちゃんとやっている世界線の僕の卒業式に思いを馳せた。

 

長く退屈な卒業式が終わり、会場を出る。ずっと座っていたためか腰が痛い。ピンクと白のストライプのネクタイを少しだけ緩め、紺色のスーツのフロントボタンを外す。スマホを確認するとサークルの後輩から『会場左手の川沿いの土手にいるんで来てください』という連絡があった。

この後輩は僕が所属していた軽音楽サークルの3つ下の可愛い女の子だ。髪は肩までのウルフカットで色は明るい。くりくりとした垂れ目で、ぽてっとした輪郭がどことなく狸を思い起こさせる。彼女はたぬきを非常に好いており、本人曰く狸が好きすぎると人間は狸に似てくるらしい。

僕はサークルを昨年度で追い出されているが、1年前に彼女が「一緒に歌いましょうよ!」と誘ってくれたことがきっかけで、ギターとキーボードのデュオを結成し、1年間活動を続けた。そして、なんだかんだサークルライブや学園祭、卒業ライブなどで演奏したりしていた。

彼女に指定された場所に行くと彼女が小さな花束を持って待っていた。いつもと変わらないくりくりした目で僕を真っすぐに見つめている。背には黒色のギターケースを背負っていた。

彼女は「とりあえずこれあげますね」と花束を僕にぽんと手渡した。僕は「雑だな」と笑った。彼女は背負っているギターケースを下に下ろし、アコースティックギターを取り出して言った。「最後に一曲歌いましょうよ!」

 

みたいなことがあればいいのに!!!世は無常!!!助けて!!!