緑黄日記

水野らばの日記

コレサワの『たばこ』を聴くと失恋をした乙女になる

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3月ももうすぐ終わる。春の気配が見え隠れし、思わせぶりな態度を取っている。夜はまだまだ寒い。僕はコンビニに行くため、人通りの少ない住宅地を歩いていた。家々の窓からは光が漏れ、少し楽しげである。スマホに繋げたイヤホンから流れる東京事変に耳を傾け、気分は新宿、天気は豪雨であった。すると、どこからか漂ってきたタバコの匂いが鼻をつついた。濁っているそのタバコの香りはどこか懐かしい気がした。慌てて僕はスマホをポケットから取り出し、椎名林檎の声を止めて、コレサワの『たばこ』を再生した。

 


コレサワ「たばこ」【Music Video】

 

コレサワは等身大の女の子の心情を可愛く、パワフルに、そして時に切なく歌い上げる、今女子中高生に人気の女性シンガーソングライターである。ライブ以外では『れ子』というクマの被り物をしており、覆面で活動していることも特徴の一つだ。

 

コレサワの『たばこ』を聴き始めると、僕は一瞬にして失恋をした乙女になった。さっきまで23歳男性だったことなんて忘れている。もう僕は完全に女の子だ。

 

23歳、旅行代理店勤務。髪は胸あたりまで長く、前髪はぱっつん。身長は152cm。好きな食べ物は安い板チョコで、嫌いな食べ物はちりめんじゃこ。鼻が低いことがコンプレックスの普通のOL。彼は大学時代に出会った軽音楽部の1つ上の先輩で、今は証券会社で働いている。綺麗な二重に高い鼻が、ヨーロッパの彫刻を思い起こさせる。

 

そんな彼と今さっきお別れをした。私の家で話し合った後、彼は去っていった。私は最後まで聞き分けのいい女の子のふりをした。彼が出ていった後、私は泣いた。ダムが決壊したかのように涙がとめどなくあふれてくる。そして泣きつかれていつの間にか眠ってしまったらしい。目が覚めると外は真っ暗だった。頭がガンガンする。目の周りが熱い。鏡をみると目が真っ赤に充血していた。ひどい顔だなと思った。

ふと、テレビ台に目をやると彼が置き忘れたらしいたばこを見つけた。私はたばこを手に取った。タバコのケースの中にはライターが入っている。たばこを机の上に置き直し、見つめていると、彼との思い出がありありと思いだされた。そして、私はたばこを手に取り、火をつけた。

 

あたかもこのような体験をしたかのような気持ちになる。あたかも。心なしか足取りも重い。さっきまであんなにファミチキが食べたかったのに。もう存在しない彼のことで頭がいっぱいである。

そして、『たばこ』を聴き終わると、自分にこのような体験がないことに絶望する。今までは当然として、これからも。ああ、女の子になりたい。マイペースでよく寝坊する彼のことを思って家の時計を5分早めたい。

 

コレサワさんの曲めちゃくちゃいいので聴いてください。